2011年、生誕100年を迎えた版画家・藤牧義夫の回顧展が
群馬の館林美術館と神奈川の近代美術館で開催されます。
本書は、その「図録がわり」の公式ガイドブックです。
藤牧版画には、謎めいた”贋作・後摺り問題”があります。
この問題については、大谷芳夫著『藤牧義夫眞偽』や
駒村吉重著『君は隅田川に消えたのか』に詳しく言及されていますが
この本(展覧会)ではその問題について、ひとつの答えが出されています。
今回の回顧展は、過去の反省を踏まえ
”真作”とされるものだけを展示した、画期的な展覧会なのです。
本書の内容もその答えが反映され、
『藤牧義夫眞偽』と並んで、今のところもっとも信頼できる藤牧本といえます。
内容も充実しています。
真作と認められる作品を、カラー図版で網羅していることはもちろん
生前の藤牧の写真や、書簡類も紹介され、資料性もばっちりです。
贋作・後摺り問題については
大人の対応として、ほとんど言及されていません。
公の美術館があからさまに
贋作・後摺り問題のキーマンである某版画家(故人)を批判することはないでしょうし
それがこの本の大きなマイナスポイントとはいえません。
問題は、本の体裁です。
生誕100年にふさわしい内容だけに、
安っぽいつくりがとても残念です。
A5サイズなので図版が小さく
しかも1ページに数点掲載しているので
画集(版画集)としては★です。
代表作である隅田川絵巻も
4巻すべて収録されていますが
虫メガネで見ても精緻なタッチはわかりません。
冒頭の解説文に使われた
極太のゴシック体も小さくて読みにくい。
略年譜も「略」しすぎです。
「古賀春江展」や「杉浦非水展」では
すばらしい展覧会図録が発行されました。
求龍堂が刊行した『長谷川りん二郎画文集・静かな奇譚』は
公刊された展覧会図録であっても、瀟洒で充実したものでした。
図録を出す予算がないとはいえ
せっかくの生誕100年で、内容も充実しているのに
とてもガッカリな”ガイドブック”です。