著者の矢吹もの初期三部作の中では、最も読者を意識したと思われる作品。
その分、さきの二作よりエンタテインメント度は高いが、ミステリとして、マニアックとしては不満があるかもしれない。
しかし、ストーリーの馴染みやすさ、というのは、世に出るためには必要なことでもある。
あの島田御大も、「寝台特急はやぶさ〜」でメジャーになった。
あの当時、御手洗ものだけだったら、マイナー作家として埋もれてしまっていただろう。
著者も「バイバイ〜」と「サマー〜」のテンションとクオリティのままだったら、マイナー作家の仲間入りだったはずだ。
本作は、そんな著者の名前が、ある程度マニアック度が低い読者に知られるきっかけとなった。
そして、著者は不本意にも伝奇SF「ヴァンパイヤ〜」でメジャーになってしまう。
しかし、著者が本作を書くことで得たエンタテインメント性は、「哲学者〜」では今ひとつだったが、「オイディプス〜」以降の矢吹ものと、その他の非矢吹もので生きることになる。
著者の思索が、徹底的な内向きから、外に向けてのものに変わっていく、まさにそのきっかけとなったのが本作である。
何より、事件のとっつきやすさと、セリフの理解度の高さが良い。
一般的には、初期三部作の中での評価は高くない。
しかし、私は好きだ。