一見、普通の日本酒ガイドのような本だが、読んでいくと、著者のいろいろなこだわりがある。
そのこだわりを読み取っていくと、日本酒のおいしさが変わってくる、そんな本だ。
例えば、日本酒の作り方は、歴史的なことよりも、現場のことに重点が置かれている。他の本では書かないようなことも記述されている。
紹介されているお酒は、よく知られているものだけではなく、隠れた名酒も多い。著者が足を運び、飲んできたお酒というポリシーが貫かれている。もちろん、著者が紹介しないお酒にもおいしいものはたくさんあるのは当然として、逆に言えば、他の本が紹介しないお酒にもおいしいものがたくさんあるということだ。
古酒のすすめも、他にはない。生酒ですら、勝手に古酒にしてしまう。蔵元だったら、どう思うか、というのはある。でも、それは消費者の自由だ。そこに魅力を見つけるというのは、著者が本書を、蔵元ではなく、あくまで消費者の立場で書こうとしている表れだろう。
著者の思い入れは、最後のあとがきでたっぷりと語られる。その意味では、まずあとがきから読むというのがいいかもしれない。お酒のおいしさというのは、名前でもなければ、お酒の中だけにあるものでもない。料理もそうだけど、体調、飲む相手、環境などなど。
本書をガイドとして使うと同時に、お酒のまわりにあるものまで、意識して楽しむというのが、正しい使い方かもしれない。
星を一つ減らした理由は、著者がそれぞれの蔵を訪れたときの紀行が、あまり収録されていないこと。著者がそこでどのような風景を見て、どのように蔵元と対話し、お酒をきいてきたのか、そのことをもっと読者に示してほしかった。