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一言で言うと、中国史の「日本でいう幕末モノ(新撰組や坂本竜馬)」を描いた作品といえるでしょう。僕は「失われた日本の近代史」という視点で作品をよく読んでいるのですが、それは日本の近代史の解釈が非常に両義的で、歴史でも習わないし国民的統一の価値観がないからです。だから、その空白の近現代史を埋めることが出来るのは、エンターテイメントが最も重要だと考えているのです。かつて司馬遼太郎の『坂の上の雲』が司馬史観を形成したように。近年は、江川達也の『日露戦争物語』や福井晴敏『終戦のローレライ』安彦良和『王道の狗』『虹色のトロツキー』や司馬遼太郎の世界で、戦前日本「から」の視点を描くものはそれなりに出てきている。しかし近現代史は、アジアの舞台を無視しては語れないはずである。朝鮮半島の人々が夢見た独立や、侵略されて軍閥が割拠して中国の再統一と近代化の希求、フランスに抑えられたベトナムの苦労や大英帝国の一部となったインドの抵抗などを、「相手側の立場」から見なくては、独善的な視点であろう。
そうしたアジアの国々の近代史こそエンターテイメントの宝庫であろうに、是非そこを読んでみたいが、なぜ作家は書かないのだろうかと、常々不思議に思っていた。いるとしたら陳舜臣さんぐらいだろうか。しかしここまで見事なエンターテイメント性を備えた作品は、これが初めてだ。アジア的絶対専制君主による数千年の支配を受けた中国には、たぶん欧米的な人民という視点は全く欠如していたのだろう。袁が皇帝になっても中国は変わらなかっただろう。その中国の伝統的な「縛り」と戦う乾隆帝や新解釈の西太后、科挙という中華的官僚制度の化け物を首席で合格した梁文秀、それに貧民から運命に抗って生き抜く宦官の李春雲たちの姿は、容易に近代国家として自立するために敵味方ともに血を流し考え戦い尽くした幕末の維新の志士や幕府側にたった人々とのドラマと重なります。読んで損はない、見事な作品です。とりわけ、最後の毛沢東へつながるシーンは、その伏線の張り方から見事に物語を構築していて、大感動でした。
善かもしれなかった。... 続きを読む
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