1967年から1970年にかけて発表され、第56回直木賞を受賞した「蒼ざめた馬を見よ」を始めとした作品を集めた短編集。それぞれの話で描かれているのは、東西の静かな戦争、大戦後20年を経て始まった平和な新しい生活と過去から伸びてくる逃れられない戦争の手の間でもがく人々の姿だ。
かなり昔の作品であるが、今でも面白く読む事ができる。この作品の良いところは、風化しがちな「時代の空気」がタイムレスに届けられているところだ。スパイや反社会主義者による策略、この時代に作者自身が持っていた反骨精神と言ったものは、大抵は安っぽくなってしまう。しかし本作については例外的に、そうした事がリアリティを持っていた時代の空気が真空パックでもされたかのように風化をしていない。
40年前の五木寛之が地中に埋めたタイムカプセルを開けたような気分になる短編集である。