ショパンに関する小説で、これほどのものはもう誰も書くことはできないだろう。この完成度に圧倒される。
とにかく文章が美しい。
言葉のひとつひとつが選び抜かれ、表現の精緻さが際立っている。
その選ばれた言葉はこれでしかありえないという洗練であいまいで表現しにくいニュアンスを余すとこなく伝える。
それは登場人物の背後の蝋燭の炎のチラチラとした揺らぎまで感じさせるほどだ。この精緻さに圧倒される。
速読や乱読は許されない。これはじっくりとそして何度も読み返すべき本だ。
ところでショパンは、作曲の際一つのパートを何週間も何週間もかけてああでもないこうでもないと散々いじった挙げ句、結局最初のものに戻すといったようなところがあったそうだ。
が、それで出来あがったものには微塵もその苦悩の跡すらみられない。それがショパンが天才たるゆえんだが、趣味による洗練ということをとにかく好んだ人だったようだ。
本書もそのように極めてショパン的に書かれたのではないかと思う。
この小説はショパンの晩年からその死にいたるまでをほぼ事実に即して書かれているものだ。
だからこその「葬送」なのかなぁと漠然と思っていた。
が、ショパンのピアノソナタ第2番葬送を聞くと、このショパンの晩年をめぐる美しく悲壮な物語はこの曲そのものだ。