中編3篇からなる小説集です。収録作品は<一本樒>、<恵比須>、そして表題の<葛橋>。<葛橋>も良いのだけれど、<一本樒>も光る魅力。
<一本樒>
良人に忠実に、真面目に生きてきた人妻・志野に訪れる転機を描きます。DVを振るう夫から逃れてきた実の妹を庇い、匿うことから生まれる悲劇。
私は、忠義が踏みにじられるのを見ると、悔しくてやるせなくて仕方ありません。志野の運命に呆気に取られつつ、この運命をもたらした人間たちへの因果を願わずにはいられません。
物語の運びで堪らない、スゴイ!と思うのは、彼らの破滅カウントダウンが、着実に行われていることです。登場人物たちの特性や<樒>を随所で効果的に絡ませながら、最後の仕上げに向かわせるこの構成・・。良く練られていると感激します。
<葛橋>
古事記によると、黄泉の国とこの世をつなぐのが“葛”。その葛で編まれた吊り橋の「あちら」と「こちら」の危うい交わりを描いた中編。夢とも現ともつかぬ世界が展開され、気持ちよく酔える小説です。
実際には、怪奇現象だとか錯覚と思われる描写なのだけれど、それらは妖しの魅力があって、坂東氏の世界に入り込んでしまう。
葛の向こうの「あちら」の世界に魅了されてしまう男の、焦燥感が伝わってきます。「あちら」には、何らかの救いがあるかもしれない、現状を変えられる何かがあるかもしれないと、期待するのは分かる気がします。
それにしては、篤子の人格に厚みがないかな。「あちら」と「こちら」の橋渡し役にしては、ちょっと薄い気がします。