名著『全身落語家読本』の続編。例の如く談志師匠の教えを鑑としながら、それを独自に発展させた志らくさんのキレのよい落語論が、ときに脱線しまくりながらも縦横無尽に語られる。落語におけるリアリズムの問題やそれぞれの噺のポイント、芸の伝承のあり方やフレーズの美学、「江戸の風」の魅力やオチの改良の方法など、狂気じみたアーティスト肌の芸人でありながらなお理論的かつ軽快な文章をものせる稀有な才能を活かし、おおよそ首肯のできる論が展開されている。
落語に少しでも関心があれば面白く読める本だと思うが、やはり、志らくさんのこの10年ぐらいの歩みを知っていたほうが断然、興味のひかれる作品であることは間違いなかろう。ライバル兄弟子・談春さんのうなぎのぼりの活躍ぶりを横目でみつつ、演劇に熱中してみたり、様々なコラボ企画にのってみたりしながら、本筋である落語の進化のために苦悩と創造の日々を過ごしてきた。この間にどのような思いや葛藤が彼のなかで起こり、それが「今」につながっているのか、感じ入ってしまう記述が少なくない。
そして、圧倒的な存在である師匠への、崇敬と愛情の念。近づこうと努力して自己が成長すればするほど、その遠い凄みに気づいてしまう喜ばしい悩み。いい関係だと思う。そうした関係性からしか導きだされないであろう見識の断片が記された「あとがき」だけでも、とりあえず読んでみてください。