著者の「この落語家を聴け!」
この落語家を聴け! (集英社文庫)がとても素晴らしかったので、期待を持って読んだのですが、巻末の【特別付録】「落語家」「この一席」私的ランキング2010を除いて、読者として新たな気付きや有益な情報が大きかったかというと、他の方のレビューの通り評価は分かれるだろうと思う。
落語評論は「今の観客にとって誰が面白い落語家か」を教えるものでなくてはいけないと著者は主張する。まさに、その通り。だから「この落語家を聴け!」は素晴らしい著作であり、今の落語界で限られた時間とお金を掛けて聴くべき噺家を推薦した正当なガイドブックだった。
でも、著者が「この落語家を聴け!」を出して一年後くらいから、保守系の落語評論家より「志の輔だ、談春だと人気のある落語家をありがたがっているのは素人。地道に寄席に出ている玄人好みの落語家を聴くのが本当の落語ファンだ」という論調で一致し始めたそうだ。そして、本著作では、保守系落語評論家の、その論調に対する反論としての主張が、多くのページを利用して展開されている。
著者は観客の立場にたって噺家を評価して居り、保守系落語評論家への批判は多くの点でその通りだと思う。でも、だからと言って、本著作の読者にはどの様なプラスがあるのだろう。むしろ、「この落語家を聴け!」と同じスタンスを取り、「この落語批評家の話を聴け!」というタイトルで「落語批評家の実名を入れたガイドブック」を書いて貰った方が、読者が惑わされず、著者の主張が判り易かったのではないかと思う。著者が批判している保守系落語批評家が誰なのかがリストアップされていないので、読者にはとても判り辛く、消化不良の印象が残ってしまう。
出版社の編集部から前述の【特別付録】を付けられないかと依頼あり、「あとがき」にかえて記載したそうだ。でも、その内容は素晴らしい。出版社も読者のニーズを理解していたからこそ、著者に依頼したのではないかと思う。著者は、今の落語界の理解では超一流、噺家の評者として、エンタテイメントとしての落語を理解し、落語の魅力を読者に伝える立派な伝道師になっていると思う。他の批評家からの自らへの評判を気にされることなく、著者の感じる噺家の魅力を今後も継続的に展開して行って欲しいと思う。
「立川こしら」はこれまで聴いたことが無かった。でも、著者の薦めに沿い、近い内に聴きに行ってみたいと思う。