菊池寛の短編集ともなると、
「恩讐の彼方に」「忠直卿行状記」「藤十郎の恋」といった定番代表作は絶対にはずすことはできません。
ですから、他の短編集とはちょっと違うよという「個性」を出そうとすれば、お馴染みの定番作以外に一体何を載せるかというところが腕の見せ所になってきます。
そんな、定番以外の作品選定のセンスが、このちくま文庫版は素晴らしい。
正攻法の感動作から、ユーモアたっぷりの小品まで。バラエティに富んだ品ぞろえです。
しかも、巻末の解説を執筆するのは、先だって亡くなったばかりの井上ひさし氏。
これが、いかにも井上氏らしいウィットに富んだ名エッセイになっており、これだけでも一読の価値があるというものです。
まさに、巻頭から巻末まで一分のスキなし。
初めて菊池寛を読む人には、私絶対、このちくま文庫版をすすめますね。
定番作はもちろん、文句のつけようがないほど素晴らしいのですが、それ以外のところで個人的におすすめなのが「島原心中」
検事の目を通して人間の業の深さに迫る異色作ですが、実は、文豪森鴎外にも、遊里での心中事件を扱った「心中」という傑作短編があるのです。
同じような題材を扱いながら、それぞれの小説から受ける感じはすごく違います。
菊池寛と森鴎外。二人の文人としての資質の違いが非常にはっきり見て取れて、私はとても興味深かったですね。
あと、もうひとつのおすすめは「弁財天の使い」
昔話のようなほのぼのとした物語を読み進み、結末に至ると、「やられたあ」とのけぞり、しばらく笑いが止まらない。そんな秀逸なオチを持った佳品です。
「うまい!」と、思わず膝を打つ、これほどの「やられた」感は、なかなか味わえるものではありません。
才人、菊池寛の手腕を、是非ご自分の目でお確かめ下さい。