ルス・ベネディクトの「菊と刀。日本人論として既に古典的な評価がなされているにも係わらず、旧訳本を全巻読み通した人はそれほど多くはないのではないか。かくいう私も内容のエッセンスは見聞きしていていたが、全編通しては読んでいなかった。それが、今回のこの新訳、始めて全巻読み通した。読みやすさで既に定評のあるこの「古典新訳文庫」。本書も同様、こなれた日本語でとても読みやすくなっている。
「応分の場を占める」という表現がよく出てくるが、これは日本人の性質として秩序と階層的な上下関係に信を置くということである。一方、アメリカ人は自由と平等に信を置く、という事から始まって、終始日本とアメリカとの文化面での比較という文化人類学的考察が展開されていく。
日本人特有の特殊な「恩と恩返しに関する一覧表」なるものをベネディクト女史は添付しているが、これは面白い試みである。
「恩」については、夏目漱石の「坊ちゃん」から、坊ちゃんが同僚の山嵐から一銭五厘の氷水を奢ってもらう一件を引用して、「恩」の貸借関係、恩と義理の関係を説明している。ナルホド。そして、日本人の恩と義理の関係の裏には「恥」の文化がある・・・・・。
さらに、「日本では、外界から認められるということが、何にもまして重要である云々・・・・・。」
ベネディクトも、訳者も、そして私も疑問であった点、「なんで日本人は、昭和20年8月15日の天皇の玉音放送後、一転して、一億総米国礼賛主義者になってしまったのか・・・・・。」
ベネディクトは、この問題点を、「日本人の子育て」にその原因を見出しているが、はてさて・・・・・。
ルス・ベネディクトのこの「菊と刀」、1946年の発表後、2年後に著者自身が急死してしまった今となっては、なんともいえないが、様々な物議をもたらしてしまった。しかし、その後いろいろ出てきた日本人論の端緒となった画期的な書物であり、非常に重要な位置を占めているものであることは間違いない。半世紀以上経った今読んでみても、なるほど名著である。