山野内荒野(やまのうち・こうや)という、野性味あふれる名前と、それに反して
黒髪の和風の顔を持った少女が、この物語のヒロインである。物語は、12歳の荒野が
中学校に通い始める頃から始まる。女たちと逢瀬を繰り返しそれをネタに小説を書く
恋愛小説家のキザな父親と、ガリガリに痩せた色気はないけれど魅力的な家政婦さんとの
静かな生活から、にぎやかな学園生活へ。美しかったり活発だったりする女友達、
そして、そっけなくされるほど気になってしまうあの男の子…今の時代だったらすぐに
「私、彼が好きなのね!」と恋愛モードに突入してしまうと思うんだけど、この小説の
見事なところは、荒野が「恋って何?」と考えたり立ち止まったりして、なかなか
恋が始まらないところである。考えたら、初恋って、人生初なんだから、最初から
分からなくて、曖昧模糊としたものかも、なんて説得力があった。奔放な父の恋愛騒動に
巻き込まれて、大人のディープな色恋沙汰を横目に見ながらマイペースで成長していく
荒野の姿は、すがすがしくて、どこか図太くもあって、十代の女の子として「こういう
一見おとなしそうだけど実は賢くて落ち着いてて、っていうタイプ、いたかも!」と
なんだか、古いクラスメートに会った気がした。
荒野が暮らす鎌倉の町、アルバイトで着る着物や、こしらえてもらった洋服、そして
放課後の買い食いのうさまん(うさぎがたのまんじゅう)など、ディテールも正しい
少女漫画している。そう、これは、黒髪の「赤毛のアン」的な小説でもあるのだ。