三国時代や項羽・劉邦のライバル関係等と比べると採り上げられる事の少なかった後漢王朝の樹立者で名君の誉れ高い光武帝の若き日(作中では劉秀、劉邦の子孫)に光を当て、群雄割拠の中で頂点に上り詰めるまでの過程を壮大なスケールで描いた作品。劉秀は穏和で情深い性格で、聡明で思慮深い上に、私欲がなく清廉で徳の高い魅力的な人物として描かれている。「徳」の高い人物が最終的には覇者になるという、まさに中国における覇道をじっくりと描いた作品と言える。この劉秀の性格付けもあって非常に爽快な物語となっている。
それにしても、作中に登場する人物やエピソードの夥しさには驚いた。この時代には既に代々の王朝の史書が整えられていたと思うが、それらの史料に対する作者の取材量は半端ではない。大部の作品という事もあるが、個人的には全ての登場人物やそれに纏わるエピソードを把握出来なかった程。だがそれらが皆、劉秀の事蹟を引き立て、劉秀が覇者になる事が自然であるように巧く描かれている。まさに大河の流れに劉秀が乗っているかの様な泰然とした筆致である。作者自身が劉秀に惚れこんでいる様子が良く伝わって来た。上述の史料から直接引用したと思われる箇所には、難解な字句も少なからずあり、やや閉口もしたが、時代の雰囲気が伝わって来るという利点もあった。題材に対する打ち込み方、その整理の仕方が秀でており、歴史小説作家としての作者の代表作と言える傑作だと思う。