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草の花 (新潮文庫)
 
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草の花 (新潮文庫) [文庫]

福永 武彦
5つ星のうち 4.3  レビューをすべて見る (27件のカスタマーレビュー)
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登録情報

  • 文庫: 268ページ
  • 出版社: 新潮社; 改版 (1956/03)
  • ISBN-10: 410111501X
  • ISBN-13: 978-4101115016
  • 発売日: 1956/03
  • 商品の寸法: 15.2 x 10.9 x 1 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.3  レビューをすべて見る (27件のカスタマーレビュー)
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「汐見さんはこのわたくしを愛したのではなくて、わたくしを通して或る永遠なものを、或る純潔なものを、或る女性的なものを、愛したのではないか…」と汐見が愛した藤木千枝子は手紙に書いている。
千枝子のこの疑いが妥当だとすれば、汐見が千枝子の兄をも愛したということが少し理解できる。彼は永遠を愛し、純潔を愛し、女性的なものを愛し、それを感じさせる人を愛した。それを愛することで彼は己の孤独を癒やしたのだろう。だから彼にとって愛の対象は男とか女とかいったことで限定されない。
そういう意味でこの小説は「同性愛」を扱ったものと言うのは正確ではない。むしろ魂の愛とでもいったらよいだろうか。
男が女を愛するという自然な図式の裏には、多分に肉欲という生物的作用が働いている。汐見の孤独は「魂の孤独」であって、肉体的な繋がりで癒やされるようなものではなかった。だから彼は千枝子を抱こうとするその時、急激に冷めていくのである。

「それは一つの燃えるかたまり、僕の欲望の具象化された現在だった。それはもう千枝子ではなく、僕の書いている小説の中の少女、作者が恣にその運命を操ることのできる一人の登場人物にすぎなかった。(中略)僕が感じていたものは、愛の極まりとしての幸福感ではなく、僕の内部にある恐怖、一種の精神的な死の観念からの、漠然とした逃避のようなものだった。僕は何かしらが怖かった。僕の手の中に抱かれている千枝子が、ふと、僕にとっての未知の女、僕の内部への闖入者のように錯覚された」。

千枝子を抱くことで彼女をただの女に変え、愛の対象ではなく、肉欲の対象とすることに汐見は躊躇した。それは自分の信じた愛を自身で裏切ることではないのか…。

彼は考えすぎで、もっとシンプルに考えればよかったのかもしれない、というのが自然な見方だろうが、そんなことは彼もわかっていたはずである。だが、現実の世界では彼は摩擦を生じずにはいられない。それは自我(理想)と世界(現実)との摩擦である。
「今はもうこの自我の他に喪うべき何ものもない。そしてこの自我という奴が、僕の最も嫌いな代物だ」と汐見は言う。彼を孤独に追いやったもの、それはこの肥大した自我であった。自我は現実では不可能な理想を求めさせ、彼はその狭間で苦しみ続ける。そこで彼は無謀な手術を志願し、術中死していくのであるが、もし自殺だったら、こういう彼の動向を、やれ臆病だの、やれ人生からの逃げだの、やれ同じような思いを抱えている人は他にもたくさんいるだのという、まるで圏外からの批難が彼を襲ったであろう。だから作者はそれをかわすため、自殺という方法をとらずに汐見を殺したのである。彼を批難できるものは彼と同じ孤独と苦しみの中でそれでも希望を見出した人に限られる。だが、そんな人間は一人も存在することはない。

小説は美しく彩られてはいるが、現実は残酷なものである。我々の社会は、彼のように孤独な魂を救う術を見出すことができるだろうか。
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11 人中、11人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By YUHKI
この作品に出逢って実はもう数十年になる。大学時代に初めて出逢って、この作品の内面の精神性の虜になってしまった。私はかなりの濫読傾向があり、余程のことがない限り大抵は一度きりしか読まない。そんな私が何度となく読み返している作品のひとつだ。主人公の背負う絶対的な孤独に同調したのかも知れない。気が付く気が付かないは別にして、人間の持つ根源的な孤独が描かれている。主人公のストイック過ぎるほどの想いは、とうとう藤木兄妹には受け入れて貰えなかった。それ故、彼は一人で死んで逝く。最後部分の彼の独白がこの作品の全てだと思う。福永作品の『愛の試み』を重ねて読めば、作者の根底に流れるものがより一層はっきり伺える。
やはり何年経っても、青春期に感銘を受けた作品には限り無い魅力が褪せずにある。
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13 人中、12人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
自分にとってあまりにも大切なものであるために、
簡単には語れない、そんな一冊ってあると思います。
この『草の花』は、私にとってそのような一冊です。

藤木とその妹である千枝子への愛が失敗に終わったのはなぜか。
病床にあって主人公である汐見は、過去を回想することで、
その理由を探ります。手記を書き終えた彼は、無謀とも思える
手術を断行し死亡する。これは自己処罰でしょうか?

汐見の視点に立って読めば、愛しているのに愛されないことに
苦しむ、青年の姿に読者は同情することでしょう。
しかし、一方的に熱烈な思いを寄せられる側の藤木はどうでしょうか。
汐見の熱い視線に、息苦しい思いを感じて当然ではないでしょうか。
一度恋愛に失敗して臆病になった汐見は、千枝子を身勝手な思いで愛します。
わざと会わないことで愛の深さを確かめる、などと汐見が語る場面がありますが、
そんなことを知らない千枝子は、自分を疎ましく思っているから
会いに来てくれないのではないか、と思って当然です。

エゴイスティックな愛に生きた汐見。そんな彼の姿を、
私たちが、不快にも、あるいは痛ましくも感じるのは、
彼のうちに、青春の日の自分を認めるからでしょう。

一言付言すれば、著者の愛に対する考えは、
汐見の哲学にではなく、作中人物の春日によって吐露されています。
このことは、『愛の試み』で春日の述べていることと
まったく同じ議論が展開されていることからも明らかでしょう。
春日は汐見を次のように諭しています。
「靭く人を愛することは自分の孤独を賭けることだ。
たとえ傷つく懼があっても、それが本当の生きかたじゃないだろうか」。
『草の花』は、福永文学研究者のある人々が言うように、
「愛の不可能性」を描いた作品などではないのです。

そしてもう一つ、蛇足ながらこの作品には「慰霊歌」
「かにかくに」といった原型があり、
白地社発行の『未刊行著作集19』に収められています。
興味のある方は、一読なさってみてはいかがでしょうか。

とまれ、私たちは、この本を通して、
失われた青春を再び生きなおすことができるのです。
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投稿日: 2008/10/15 投稿者: ワクロー3
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投稿日: 2007/12/24 投稿者: ライポン
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