荀子の書き下し文と、全訳、注、語句・人名索引と短い解説で構成される2巻本。金谷治の他の書と比べると漢文がない、解説が短いという点が残念ですが、おそらくこれは本自体が大著なため、全体の分量を少なくするための手段と思われます。他の出版社のものは抄訳がほとんどですので、希少な全訳本と言えます。性悪説などから異端とされることもある本書ですが、四書などと較べると思想の基本は同じで儒教の理解に役立ちます。特に礼義(社会規範)の概念と重要性が詳述されています。孟子などが聖人君子を念頭に置いた非常に高い理想のもとに書かれているのに対し、本書は、その理想は高いものの、庶民でもいかに儒教で高められていくことができるかが書かれています。“賎しい身分のものでも、学に通達すれば聖人になれる”といった文章があり、幅広い読者層に受け入れられる内容です。大著で内容が堅く多岐にわたりますので、通読には数ヶ月かかります。各章の間の相互のつながりはありませんし、関連する部分は注に書かれていますので、一部のみを読んだり、好きな部分から読んでも得られるものは大きいと思われます。金言が随所にみられ、”日々、道義にのっとった小事を積み重ねればどんな人間でも君子になれる”としますが、”栄達するか不遇に終わるかは時世にかかわる”と厳しい現実社会も見据え、“言として報われざることなく、徳として報われざることなし”といった将来の明るい希望が述べられます。最後に、憂いの絶えない現代人に救いの引用を以下に。
“君子は求めるものがまだ得られない時には自分で自分の意志を楽しみ、既にそれが得られたときにはまた万事がうまくゆくことを楽しみとする。だから一生楽しみが続いて一日でも憂えることがない。小人は求めることがまだ得られない時にはその得られないこと悲しみ、既にそれが得られた時にはまたそれを失うまいとして心配する。だから一生憂いごとが続いて楽しむことがない(子道篇29:8)。”