キューバの同性愛者が迫害をうけるという物語に「夜になる前に」というアメリカ映画がありますが、この映画「苺とチョコレート」はキューバ自身が「反革命的ゲイ」を正面きって描いているという点で大きな驚きをもって見ました。階級・男女・貧富といったあらゆる社会的差別を解消することを信じて行なわれたキューバ革命も、同性愛者に対する厳格な偏見から自らを解放することには成功していないという現実を突きつけているわけで、そうした内容の映画が製作はおろか公開されて高い評価を得るということが93年のキューバで起こりえたということに驚愕を禁じえません。93年の東京国際映画祭グランプリ受賞作である中国映画「青い凧」は、共産党員の描き方が適切ではないないという理由で中国国内では上映禁止となりました。そういうわけで私には、共産主義国家は体制批判的映画には厳しくのぞむものというイメージがあるのです。
自宅のベランダからハバナの家並みを眺め渡しながら「Vivimos en una de las ciudades ma′s maravillosas del mundo. ( 僕らは世界で一番美しい街に住んでる)」と語るディエゴ。彼はこの街をこよなく愛しているわけで、それが崩壊する一方である姿に心痛めます。彼はこの街にとどまって何かをしたいと考えているのです。
革命を信じるダビドがディエゴを思想改革しようと懸命に弁をふるうシーンがあります。農村出身でありながら大学へも通えるようになったのは革命のおかげと語るディエゴ。しかしナチスも、貧しい青少年に富裕層と同じように旅に出る経済的余裕を与えることによって思想的に取り込むことに成功していった事実があります。(「ナチ独裁下の子どもたち」講談社選書メチエ)貧困解消の到達点が、芸術の発表の機会を奪う世界であっては決してならないはずです。
いろいろと考えること多き映画でした。