始皇帝(正確にはまだ秦王政の段階)の暗殺計画に関する優れた映画は現時点で2本ある。本作とチェン・カイコー監督の「始皇帝暗殺」である。しかし、秦王宮殿として同じセットを使ったりしているものの、両監督の個性を反映してか、内容は大きく異なり、どちらも楽しめる。明らかに史記の記述に沿っているのは始皇帝暗殺の方であるが、史記と離れても本作は十分楽しめる。本作に関しては、映像美に酔いしれる。異なるストーリー毎に統一された色彩(衣服など)、そして黄金の枯葉舞う中での女性同士の決闘。ワイヤーアクションの極致と言っていい達人同士の戦い。特に琴の音をバックにした対決、湖上での対決は圧倒的に素晴しい。確か外伝のDVDで紹介していたと思うが、剣が水に触れる音にまで細かく気を使って録音している。本作にかけるスタッフの心意気に拍手を送りたい。剣を使った中国のアクション映画で本作を凌ぐ作品を私は知らない。そして、天下を思い、天下統一を託すことのできる王だと秦王を見抜き、暗殺を思いとどまらせようとする残剣と実際に秦王に接して暗殺寸前で思いとどまる無名。その無名の思いを感じつつも、法に従い、無名を殺させる秦王。自分の役割は終わったと自覚して死を受容する無名。無名を厚く葬る秦王。この天下を巡る男たちの心の通い合いが本作の感動を盛り上げる。実際の秦王は「始皇帝暗殺」に描かれた姿に近かったであろうが、史実とは離れて、この中国古代を舞台にした映画は繰り返し鑑賞するに足りる名作である。