日本陸軍中の異端児として知られた石原莞爾の評伝。かなり詳細なものである。読了してわたくしがもっとも意外に思ったのは、石原の師団長としての部下への暖かなまなざしである。食事や風呂の改革など本当に部下思いでなければ発想できないことだ。むしろ有名なのは演習中に田畑を荒らさないように訓令したエピソードだろうが、わたくしには孤高の天才児としての思い込みがあっただけに、石原の人間的な側面には意表を突かれた。
本来、石原の上司板垣征四郎がA級戦犯として訴追されている以上、石原自身にもGHQの魔の手が伸びてきて当然だった。しかし石原は逆に「原爆こそが許されない戦争犯罪」と公言して憚らなかった。その姿勢がかえってGHQに「この男に手を出したらアブナイ」と思わせたのだろう。しかしこれを石原の作戦勝ちとみるのはちょっと違うように思われる。結果的に石原の気迫が勝っただけであり、戦犯としての訴追を石原が恐れていたようには見えないのである。
他にもいろいろと参考になるエピソードが紹介されているので、石原莞爾に興味・関心を持つ読者には、やや大部ではあるけれども一読を勧めたい。