本書は英語医薬論文の「読みかた、訳しかた」のテキストですが、「読みかた」を解説するというよりは「訳しかた」を解説することによって「読みかた」を上達させ、勿論「訳しかた」も上達するというテキストになっています。従って、翻訳をあまりしたことがない方や初心者は少々難しい、必要ないと感じるかもしれません。しかし、英会話の学習法と同じように「自然な日本語訳」の方法を身につけることは、英文速読の上達につながります。また、著者が述べているように、本書は「医療関係者、製薬企業の人たちなどが日頃の業務の間に気楽に読め、英語に親しみが持てるようになること、そして英語から日本語に翻訳するという行為を通じて英語論文へのアプローチがより容易になることを目的として」書かれているので、まずは一読してください。
また、日常業務として英語医薬論文を読んでいるという方は、例文を自分で訳して本書の解答例と比較してみることをお薦めします。実際に訳してみると、日頃英語医薬論文を曖昧に理解していることを改めて実感します。更に、多岐に亘った例文が掲載されていますので、いろいろな文書の読みかた、訳しかたを短期間で上達させる一助になると思います。
本書第一章の基本編では、英文を読んで日本語に翻訳するときの基本原則を解説しています。特に、直訳を意訳にする際に「日本語表現の問題点」すなわち、(1)日本語表現の曖昧さ (2)日本語独特の表現 (3)単数・複数の不明瞭性 (4)主語がなくとも通用すること、をいかに補っていくかを親切に解説しています。更に、翻訳者が原文の内容をある程度理解すること、専門表現の補足的解釈の必要性、辞書、辞典だけではなく、日頃日本語の医薬論文・関連資料を読むことの重要性も述べています。
第二章、第三章はそれぞれ臨床関連7件、ファルマコビジランス関連の論文17件について「読解のポイント」、「用語の理解と表現検討」、「著者の訳文例」が述べられています。
英語医薬論文は疾患や薬効分野によって新しい言葉が次々と出てきて、それをどのように訳すか迷うことも多いのですが、「用語の理解と表現検討」の欄を読むと新しい言葉に出会った場合にどのように考えて対処するかが分かります。
また、通常使われる訳も多く紹介されています。例えば、「Efficacious, effective はどちらとも『効きめのある』、『有効な』などの意味になるが、医薬品の場合にはefficacious, 治療や手術などの場合にはeffectiveが一般的に使われています。」と述べています。
ファルマコビジランス関連の例文では、Labelingは「表示」ではなく、医薬品の使用に関連した文章では「添付文書の記載」と訳す、など論文の種類による訳語の選択例も紹介されています。
更に、訳者の判断をどこまで入れるかも述べられています。例えば、腎疾患治療の論文例の一文に、「Other therapy included total parenteral nutrition, digoxin, and furosemide for edema.」があります。 直訳するとfor edema (浮腫に対して)投与されたのはfurosemideのみか、それとも parenteral nutritionとdigoxinもその目的で使われたのかが不明で曖昧に訳すことになります。しかし、著者はもう少し踏み込んで「furosemide の使用目的(利尿剤)を考慮すると、furosemideのみに限定しているものと解釈することができます。なぜならnutritionそのものは浮腫のために投与されたとは考えられないからです。」と述べています。従って、訳例文は「それ以外の治療としては、完全非経口栄養補給、ジゴキシン、並びに浮腫がみられたのでフロセマイド投与が行われた」としています。
本書にはこれ以外にもICH関連の論文や英国薬剤師憲章なども載っていますので、一読後は机上に置いて困った時の参考書として使うことができます。巻末には英語語句索引があり、訳例を探し易くなっているので便利です。
本書は2002年版の改訂・増補版ということですが、今後も例文を増やして追補版を作成して頂けることを期待します。