本書は2部構成である。第1部は著者独自の視点で編まれた文法解説となっており、第2部は雑誌『英語青年』に連載されていた「英語小説翻訳講座」がもとになっている。
第1部で取り上げられている文法項目の内容はそこそこ上級のものが多いようにおもえる。個人的には、「主格補語」「仮定法('U)」を興味深く読んだ。付随する例文が豊富に挙げられているのも親切である。また、古今の様々な文学作品が引用されているのも愉しい。私自身は知らない作家も多かったが、引用されている一節を読み、興味を持った作家もいる。例えば、97ページに引用されているアイルランドの作家Colm Toibinの短篇の一節は胸にぐっと来るものがあった。近々この作家の本を取り寄せて読んでみたいとおもっている。新しい作家の発見という意味でも、この第1部は有意義だった。
第2部の「英語小説翻訳講座」では、イギリスの作家グレアム・スウィフトの短篇"Our Nicky's Heart"が主に取り上げられている。著者自身、この作家の代表作(『ウォーターランド』と『最後の注文』)の訳者でもある。これまでグレアム・スウィフトの作品にはさほど興味を持ってこなかったが、真野氏の丁寧な読解の助けも借りながらこれを堪能することができた。この短篇は臓器提供をテーマにしたものだが、真野氏は自らの試訳を披露することで翻訳者としての自身の姿をさらけ出してくれる。ときには迷い、そして妥協し、ときには会心の訳に満足する。そういった著者自身の誠実な姿勢にも好感が持てる。ご自身はあまり満足されていないようだが、例えば第13回に出てくるsomehow the nub --- I can't say the other word --- of the matterの訳には唸った。この部分だけではわかりにくいのだが、あえて触れておく。これはもう名訳と言わざるをえない。気になる方は、ぜひご一読を。
私はこれまでいろいろと原書を読んできたが、本書を読み、これまで読んだ本のいったい何割を理解していたのだろうかと不安になってしまった。ここは謙虚になって、著者のような「本当に英語が読める人」の英語との付き合いかたを肝に銘じておこうとおもった次第。