著者は有名なハイデガー研究者だが、ドイツ哲学全般に大変造詣の深い人で、博引傍証的に、片言一句、引用の根拠を挙げて注記する、典型的な大学人、「東大の哲学の先生」という感じだ。だが、文章はいつも丁寧で、誰にも分かるようにきちんと書いてくれる立派な哲学者だ。その人が、論理記号や、記号の羅列に近い文章を苦手とする人向けに、丁寧に、丁寧に書いてくれた本である。だが、冗長ではなく面白く読めるところが凄い。言っては著者に失礼だが、著者の得意分野の本より面白いぐらいだった。これ1冊で、ムーアからオースティンまで大事なところは基本が分かるぐらいにはなっている。凄い努力の賜物だと思う。だが、時々、我慢しきれなくなったかのように、本音が爆発、「こんな安易な論理で、ハイデガーやヘーゲルを批判できるがらか」と言わんばかりの厳しい指摘は、爽快で哄笑を誘う。一方、読み終わって感謝する一方、やっぱり、論理実証主義の側から言わせれば、この解説には不満と言うか、それは違うぞ、という批判が出てくるのではないか、と想像されてくる。だが、それでも良いのだ。とにかく、読者は、読む前まではチンプンカンプンだった世界が、曲がりなりにも、想定できるようになっているのだから。