本書には原典英文も収められており、手頃な値段で読めるのが何よりありがたい。講談社学術文庫にはときどきこういう英文収録版が入ることがあり、そのことを粋に感じている次第。
天心の書く英語は明治知識人の中でも群を抜いているように思える。英語学習の一環として本書を読んだが、ちょっとやそっとではこのレベルに到達することはできないという事実に打ちひしがれながらも、あまりの見事さ故にむしろそんなことなど忘れてただ陶然として読み進めることとなった。
書かれた時代を考えれば、その英文は多少古めかしく見えるかもしれないが、とはいえそれは現代にまで生き残る100年前に建てられた荘厳な建築物にも擬せられるのではないか。この場合、「古めかしい」というのは決して悪い意味ではない。一節引いてみたい。
《The heaven of modern humanity is indeed shattered in the Cyclopean struggle for wealth and power. The world is groping in the shadow of egotism and vulgarity. Knowledge is bought through a bad conscience, benevolence practised for the sake of utility. The East and West, like two dragons tossed in a sea of ferment, in vain strive to regain the jewel of life.》
これは第1章の末尾近い文章だが、the heaven of / Cyclopean / a sea of / the jewel of などの比喩のレベルが尋常を超えている。溜息しか出ないというのはこういうことを言うのだろう。