この映像は、'01年Covent Gardenで上演された際、収録された物。演出・振付は、'85年に収録された同作品の映像と同じP.Wright。基本的な構想に変化はないが、この2つの公演の印象は可也違う。P.Wrightは、Birminghamでも同作品を制作しており、そこで高い効果を挙げた要素を、このCovent Garden版に融合させている。振付の改訂も多いが、特にDanse classiqueの振付に関しては、この公演の方が'85年の公演より優れている。振付が豊かなイマジネーションに支えられ、効果的且つ高い芸術性に富んだものになっている。この公演映像の最も大きな特徴は、Herr Drossermeyerがこの物語の全てを司っていると言う事。この役を演じるのはA.Dowell。彼は、Pasを踏む事はないが、幕開きからエピローグまで、殆どの場面に出ている。要所を掴んだ効果的な芝居、表情の豊かさ、舞台人としての強烈なオーラ、彼が舞台に現れると、彼の一挙手一投足に視聴者の眼が釘付けになる。'85年の公演では、M.Colemanがこの役を演じていたが、彼の慇懃な演技に対し、Dowellの演技は動きが大きく、所狭しと動き回る。甥Hansの救出計画の開始から終結迄、全てに亘ってこの物語を支配する。この公演では、DowellとHerr Drossermeyerが同一化されているように感じられ、彼が熱演する程、Dowell自身の存在が強く印象付けられる。この<胡桃>の公演の真の主役は、Herr Drossermeyerと言って良いかも知れない。もう一つの特徴は、ClaraとHansを子役とせず、年齢の若い大人の舞踊家に演じさせているという事と、彼等の踊りの場面を大幅に増やしているという事。1幕の鼠との戦争で力尽きたHansが意識を取り戻す場面で踊られるデュエットは、'85年の公演では効果的であってもシンプルな物だったが、この公演では、Macmillan張りの難度の高い技巧を要求する振付になっているし、雪原の場面も雪の精達と共に踊る。2幕のDivertissementにも彼等は積極的に参加する。物語上の主役Claraを演じるA.Cojocaruは、ルーマニア出身の若いPrincipal。背丈も然程高くなく周りの子役達に混じっても違和感がない。ローティーンとしての役造り・芝居も上手く、見事なClaraだった。勿論舞踊技術にも秀でている。HansのI.Putrovはウクライナ出身のPrincipal、彼も十分に若い舞踊家、LausanneとLifar competitionの優勝者だけあって、素晴らしい技量を持ち、音楽的感性も鋭い。芝居巧者とは言い辛いが、その素直な演技に好感を持てる。二人とも踊るのが大好きと言う心が見る側に伝わって来て、見る側も清々しい気持ちになる。2人のコンビネーションも抜群である。Danse classiqueの場面の主役The sugar plum fairyの吉田都とThe princeのJ.Copeも最高水準の踊りで、Danse classiqueの醍醐味を堪能させてくれた。巨匠Svetlanovの作る音楽は豊麗で表情に富んでいるが、舞踊家にとって踊り易い物ばかりではなかった。しかし、彼等はその音楽を逆に活かして<大人>の世界の踊りを見事に造り出していた。彼等の踊るGrand pas de deuxは正しくこの作品の最大のハイライトだった。私は、<胡桃>をDanse classiqueの場面を要所に挟んだBallet d'actionと考えているので、'85年の公演の方が私には好ましい。でも、'01年のこの公演の完成度は驚くべき高さに達している。素晴らしい公演の記録が残された事に感謝するばかりである。