登録情報
|
|
あなたの意見や感想を教えてください:
|
||||||||||||||||||||||
|
最も参考になったカスタマーレビュー
344 人中、302人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
もたざる者たちのバイブル,
By デューク・モリスン (北海道札幌市) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 苦役列車 (ハードカバー)
今、テレビに出るのは「もってる」人ばかりだ。甲子園の優勝投手で早稲田に進学し、今季日本ハムに入団した斎藤佑樹は自らを「もってる」と言った。名声もあり、素晴らしい仲間もあり、今は、日本中の報道関係者をもっている。な〜んももってないオレは、口をアングリとして見るほかはない。テレビではニュースをやっている。直木賞、芥川賞の発表らしい。「道尾秀介」…あ、このまえ情熱大陸に出ていたぞ。才能あり、大ヒット作連発、セレブな友人多数。写真のモデルにもなっていた。こいつももってる奴だなあ。「きことわ」…なになに、慶應義塾大学院生の20代?フランス文学者一家?あ、きれいな人だ。才色兼備じゃねえか。この女性ももってるなあ。 今や、もってる人でないと世に出ることは難しい。傑出した能力、清潔な外観、温厚な性格、つまり紳士淑女でないとダメなのだ。彼らは瞬く間にもってる者同士でネットワークを築き上げてしまう。今流行の「無縁社会」も、もってる人達による囲い込み運動の結果にすぎない。そして、彼らは決して「もってない」我々は視界に入らない。 ニュースは続いている。え、もう一人、芥川賞いるのか。ぱっとしない中年男がでてきたぞ。 「今から、風俗行きます。祝ってくれる友だちもいませんし、連絡する人も誰もいません」 ??? なんだ、こいつは?見事なまでに、もってない!!! オイラはすぐに本屋に駆け込んだ。お金を使いたくないが仕方ねえ。「ボクに『苦役列車』を売ってください」 すげえよ、これは。ここまで魂をゆさぶられたのは久しぶりだ。この孤独感。この孤立感。この虚無感。あがいてもあがいても浮かび上がれない息苦しさ、滑稽さ。これは、もたざる者の、もたざる者による、もたざる者のための書だ。 日雇い先に向かうバスの中から野球場が見える。そう。オイラも何度も見てきた。バスからは決まって野球場が見える。誰もいない野球場が。 圧巻は、日下部の彼女と接点をつくるため、一緒に野球を観に行くシークエンスだ。そこだけ主人公の頭は素早く回る。断じて怠惰ではない。フロイト曰く。「性衝動は自分が思っているよりもはるかに強い」しかし、主人公は失敗してしまう。 『苦役列車』が優れているのは、もたざる者の声を代弁してるからではない。もたざる者が怠惰な海に心地よく浸ったときの苦境をあますところなく描いているからだ。 それにしても、我々にしかわからない世界だ。よくぞ、選考委員の方々が推してくれたものだ。おかげで、怠惰なボクも西村賢太を知ることができた。その僥倖に深く感謝する。
73 人中、60人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
そこはかとなく感じられる「おかしみ」,
By
レビュー対象商品: 苦役列車 (ハードカバー)
芥川賞を受賞作をいち早く読むという習慣もなく、『KAGEROU』のような話題作にもまったく食指が動かない私のような人間でも、授賞式の記者会見で著者 を初めて知って以来、読まざるを得ない気持ちになった。この著者は小説を書か ざるを得ない人だということが直感的に伝わってきたから。 私小説であるというその内容は、罪なき罰を背負った青年の、孤独と不満と諦念 の入り混じった塩辛い日常を淡々と描いたものである。もちまえの過剰な自意識 がこの青年にことさらに卑屈な態度をとらせ、せっかくできた友人も遠ざかって いく。かといって青年は一念発起するわけでもなく、凶悪犯罪に走るでもなく、 自分を罵ったり、他人を妬んだり、もうどうでもよくなったりしつつ、日雇いの 仕事と居酒屋と風俗店のループから出ることなく日々過ぎていく。 暗くて後味の悪い小説を予想していたが、意外にも、その独特な文章からは「お かしみ」が滲みでていて、深刻になりすぎないよう絶妙にコントロールされてい る。語り口を変えれば、「未来を閉ざされ、友も恋人もなく、単純労働で日銭を 稼ぐ毎日」という設定のこの物語も、随所で笑えるドラマやマンガにさえなるよ うな気がした。その「おかしみ」は、この本に収録されている短編、「落ちぶれ て袖に涙のふりかかる」でも存分に発揮されている。著者は、尊敬してやまない 藤澤清造の作風を「滑稽だけど悲惨味もある」と評しているが、この小説は、 「悲惨だけど滑稽味もある」ふうに仕上がっている。私小説が日記や自伝と違う のは、自分の人生や経験なりをあくまで第三者的に見て、読者目線で構成しなお し、悲惨さなり滑稽さなりで入念に味付けをしているところだろう。
13 人中、11人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
講談を聞いているかのごとき文体。,
By
レビュー対象商品: 苦役列車 (ハードカバー)
西村賢太の文体はユニークだ。主人公が置かれている状況というのは、非常に悲観的状況で、本書の中にも表現として出てくるのだが、「落伍者」としての主人公が登場していて、すなわちそれは作者のかつての西村賢太自身のことでもあるということなのだろう。 そうしたタイトルの『苦役列車』ということからも分かるように、『蟹工船』的な悲惨さが漂う作品かと思いきや、読み始めから何やら文体にユーモアがあり、「悲劇的状況」がそうは感じられないという効果がある。 この「ユニークな文体」を、未読の人に説明するにはどうしたものかと考え込んだのだが、「講談風文体」とでも表現するのが相応しいのではないかと思えてきた。 本当に講談師が、講談をしているような感じなのである。 この「講談風文体」によって、西村賢太はある種の「寓話性」のような「救い」を小説の中に取り込むことに成功している。 決して劇的な結末が用意されているわけではないが、読後感は「さらり」として印象を残す。 作者の西村氏は、愛すべき人間というような人では決してないのだが、そもそも作家業というものは変人のような人がしてきた仕事でもある。 だから、作者自身に人間性なるものを求めるのは、本来的な作家の性質とは真逆なことのようにも思える。 であるから、どうか作者自身に嫌悪感を抱かないで、西村賢太の作品を読んで欲しいものだと願う。 作品とは、それ自体自立して離れていくものなのだから・・・。
あなたの意見や感想を教えてください: 自分のレビューを作成する
|
最近のカスタマーレビュー |
|
この商品のクチコミ一覧
クチコミを検索
|
関連するクチコミ一覧
|
|
|
|