若冲のみならず江戸絵画有数のコレクターのジョー・D・プライスさんの生き様を紹介しながら、若冲を始め江戸絵画の名品をこれでもかというぐらいに掲載したムックです。小学館と大日本印刷の美術印刷の冴えを見せてもらいました。戦前の日本画壇において低い評価しかされず忘れ去られていく運命にさえあった若冲を始め、蘆雪、蕭白、鈴木基一などの絵師の魅力を再発見したと言えるプライス氏がいるからこそ、幅広い作品への本来的な価値の評価につながったのでしょう。
近年富みに注目を浴びている伊藤若冲ですが、その絵画を論じる際にはいつも、若冲や江戸時代の絵画収集家としてプライス・コレクションが登場します。有名な『鳥獣花木図屏風』の六曲一双の独特の画風を現代人が評価するのは当然でしょう。これを原寸大で披露していました。プライス氏は自宅のお風呂にこの「鳥獣花木図屏風」をタイルにして張り巡らせています。東京国立博物館が当初評価できなかったこの作品を青い目のコレクターが評価したのはまさしく慧眼と言えるでしょう。審美眼の確かさと先見性に感服しました。
このあたりのエピソードは、学習院大学教授の小林忠氏と明治学院大学教授の山下裕二氏の対談で詳しく語られています。東京国立博物館の踊り場の片隅にあったものを小林氏が発見したという逸話は若冲愛好家にとっては有名な話です。「鳥獣花木図屏風」を仏画だとする2人の権威ある美術史家の話は参考になりました。
48ページから相国寺に寄進した30幅の「動植綵絵」が掲載してあります。この極彩色の細画には本当に脅かされます。華麗な色彩を駆使しており、写実的でありながら非現実的なモティーフがまた異能の画家の本領発揮と言えるでしょう。若冲の画風は一見して明画のようです。狩野派の画法を捨てて、濃彩の花鳥画を題材にした宋元画の模写に励んだと言われていますので、戦前の日本画壇や美術史家から冷遇されてきたのは理解できますが、これだけの特異な画風はほとんど類をみません。
兵庫県の香住にある大乗寺の障壁画をプライス氏が観賞している風景がカラーで掲載されています。円山応挙の最晩年の傑作『松に孔雀図』や長澤蘆雪の『群猿図』の前でプライス氏は自然光の中で作品と対面していました。この鑑賞態度から江戸時代絵画に対する愛情が一杯感じられます。
京都・聚光院の書院を飾る狩野永徳の手になる国宝「四季花鳥図襖」にもプライス氏は対面しています。梅の枝振りが豪快で、小鳥の繊細な描き分けは見事な国宝に対するプライス氏のコメントも貴重でしょう。ユニークな見解を披露される山下裕二氏も同席され、その話も挟み込まれていますので、若冲ファンにとっては垂涎のムックだと言えるでしょう。
巻末の折り込みとして、若冲の『葡萄図』の原寸ポスターが付いていました。本編だけでも十分な値打があるのに、このサービスによってより付加価値の高いムックになりました。