『ユリシーズ』で知られ、今年ユリシーズの日100周年だったジョイ
スの小説。半自伝的、とされ、『ユリシーズ』の2,3年前を描いてい
る。
アイルランドの中産階級に生まれた(後に没落)スティーブン・ディー
ダラス青年が、幼児~大学まで成長していく姿を描く。最初は童話っぽ
い幼い文体で始まり、スティーブンの成長に合わせて文体も複雑になっ
ていく。文体が主人公を表しているのである。
寄宿制学校で受けた侮辱、先生への不信感、などなど、成長期の経験や
気持ちをうまく捉えている。ジョイスは子供の頃のことも忘れていない
人だったのでしょう。学校によって形成される鬱屈した人間性を見事に
描写している。
ラテン語も多く登場し、一寸インテリっぽいし、カトリックやアイルラ
ンドの問題も多いが、それでも共感できる部分は多いと思う。
大学生になって美学論をぶるスティーブンの頭の良さには感心させられ
ると同時に、読者も「美とは何か」と考えさせられる。キリスト教につ
いて延々と語られる場面では、逆に、部外者として客観的に教義を考え
ることができ、信仰の深さ、不思議さを感じる。
ところどころ難しいが比較的読みやすいジョイス作品だ。