ノーベル文学賞だとか、大江だとか、そういうものではない。
1センチにも満たないこの文庫本だが、非常に重厚かつ濃厚な味わいを内包している。
言葉の端々に現れる大江ならではの節回し。
情景あろうと感情だろうと五感だろうと一気に叩き込んでくる濃密な筆致。
めまいすら覚えるほど、甘美である。
感化院の少年たちがとある山村に取り残される。
唯一の抜け道は閉鎖され、山村では疫病が蔓延していることがわかる。
それでもそこは、少年たちにとってはじめて手に入れた「自由」を孕む王国であった。
「自由」を体いっぱい体感してゆくサマは、戦争小説である本作をみずみずしいジュヴナイルにさえ仕上げている。
大江の、一般に読みにくく難解とされ敬遠されがちな文章ではあるが、分量的に少なく、近作とことなり、処女長編であるがゆえエネルギッシュであるし、比較的読みやすくなっている。
この本を手始めに、エンターテインメントとしての小説=娯楽のみでなく、文学としての小説=芸術という世界を垣間見てはいかがだろうか。