出版社/編集部からのコメント
白と青、黄と緑、そして黒と紅。色が去来する。
金曜日の閉館まぎわにサントリー美術館に駆けこんで初期伊万里展をみた。ひとくちに伊万里焼といっても様式はさまざまだけれど、今展には磁器草創期の名品が勢揃いして、往時の職人たちの心躍りがしのばれる。それにしても日本で初めての磁器が17世紀初頭の肥前でなぜ、どのように焼かれだしたのだろう。今月の特集「伊万里のはじまり」は最新の研究調査をふまえてその秘密をさぐりながら、柳宗悦をはじめ伊万里に惚れた5人の男たちの物語と、古伊万里の器にふさわしい家庭料理の作り方にまで話題が広がった。陶磁史と骨董と普段の器づかいの三本立て伊万里入門である。
なお初期伊万里展は12月12日迄。白磁に青い染付のおおらかな初期伊万里、黄と緑でグイグイ押してくる古九谷に目移りして、一服したくなる。11階の窓ごしに赤坂を見下ろすと高速道路をゆくテイルランプの紅が夕闇に滲んでた。(編集長・長井和博)
抜粋
小特集
ヴォルフガング・ティルマンス 写真を泳ぐ
いま世界でもっとも注目を集めている写真家が、日本では初の本格的な個展を開いている 静物、風景、ポートレイト、そして印画紙に直接露光した抽象的なイメージ その変幻自在な展示を目の前にすると、ふしぎな幸福感にみたされる
[筆者]
飯沢耕太郎[いいざわ・こうたろう 写真評論家]
東京オペラシティアートギャラリーの、「ヴォルフガング・ティルマンス(Wolfgang Tillmans : Freischwimmer)展の会場で、幸福感を味わっていた。写真展を見て、そんな気持ちになるのは珍しい。強い衝撃を受けることもあるし、背筋が凍りつくような恐怖に襲われることもある。だが、「幸福」というような感情に包み込まれることはそれほど多くない。むしろ、どうしても悲劇的な相貌があらわれてしまうことが、写真というメディアにつきまとう特性なのかと思うことがよくある。
ティルマンスの仕事は、そういう写真の陥穽から不思議に逃れているところがある。とはいえ、彼の写真に喜びや楽しさのようなポジティブな場面だけが写っているかといえば、決してそうではない。そこには悲痛な表情をした人物もいれば、やや不気味なモノの集合もある。彼がカミング・アウトしたゲイであることはよく知られているが、その友人たちのふるまいは一般的な基準から見ればあまりお行儀がいいとはいえない。近作の光の変化をそのまま印画紙に定着した抽象作品も、見方によっては爆発や血の染みのようでもある。
にもかかわらず、たとえネガティブに思える被写体をたっぷりと含んでいたとしても、彼の写真を前にして、その柔らかな波動に浸透されていると「幸福」としかいいようのない気持ちになる。なぜなのだろうか。なぜ彼の作品には、見る者をそういう感情に引き込んでいく力が備わっているのだろうか。
(続きは本誌でお楽しみください)