なんとも不思議な話が6篇。ありえないようでいて、じわじわとあるいはズキンと胸に入り込んでくる話だ。
“昭和”の時代の空気を色濃く漂わせた、どこか懐かしくしかし決して綺麗事ではない子供時代の思い出が語られてゆくにつれ、物語の世界に引きこまれていった。
大阪の下町、路地の子供、いかがわしい大人……そんな物語の設定のなかに滲みでてくるのは、6篇とも子供時代の“秘密”や“不思議な体験”であり、それが<死>と隣り合った思い出であることだ。
人の死、幽霊、墓場、葬式等々、死と関連するモチーフが、人間の弱さや切実な願いや、どうにもならない現実の重さや……いろいろな<生>を浮き上がらせていく。
「トカビの夜」のチェンホのいじらしさに胸打たれ、「凍蝶」の現実の苦みに自分が大人になってしまったことを思い知らされたりした。6篇とも本当に甲乙つけがたい話で、うまくは言えないが、みぞおちのあたりを軽く小突かれたような思いが残る。ただの不思議な話ではないのである。
本来は賞の結果に関係なく評されるべき作品だろうが、「朱川さん、直木賞受賞、おめでとうございます」と、一言添えさせていただきたい。