多くの推理小説を残した山村美沙にとって、京都を舞台にした最初の作品ですし、後に沢山の小説に登場するミス・キャサリンが初めて推理を試みたわけですから、山村美沙の全作品の中でも重要な位置を占める作品です。ペアを組む浜口一郎や京都府警の狩矢警部などお馴染みの登場人物の初出の作品でもあります。
1975年9月にカッパ・ノベルスとして出版され、1981年8月に文春文庫から、1986年11月に光文社文庫から、1989年11月に講談社より山村美沙長編推理選集として、1999年12月に徳間文庫から、2001年1月に埼玉福祉会から大活字本シリーズとして出版されたという履歴を見るだけで、彼女の代表作品の一つだと言えるでしょう。
この作品はトリックといい、登場人物の描きた方、動機など瑞々しく描けており、多作の作家となった後年の作品とは一線を画しています。ベスト・セラーを生み出した作家でしたから、出版社の要請もあって量産は仕方がないことかもしれませんが、本作のようにプロットの練られた作品が多ければ、後世にずっと読み継がれる小説家としての評価が固まったのに、という思いがあります。
山村美沙は池坊準華監で華道には相当な心得がありますし、茶道の師範免状も取得していますので、本作品の舞台や登場人物の背景への知識は確かなものですから作品の描写に深みを与えています。家元制度のあり方やその収入構造などは本作成立の大事な要素の一つで、効果的でした。『花の棺』というタイトルも良く練られたものだと思います。
京都の名所もふんだんに登場します。本作の成功により、山村美沙の作品傾向が固まったのでは、と考えられるエポックメイキング的な小説だと評価しています。