カラオケには収まっていても、原作すら古書店街でも目にしなくなり、ため息交じりの中、復刊されたことは喜ばしい。
たまたま、岩波現代文庫に収まっていることを知り、早速に購入した。神田の古書店でもなかなか購入できるものではなかっただけに、感無量だった。
この小説の舞台は北九州の若松港だが、日本のエネルギーが石炭であった頃のことである。筑豊炭田の石炭は人力で遠賀川河口へと運ばれ、八幡製鉄所、若松港の汽船の燃料として重宝された。その石炭も、沖仲仕によって汽船に積み込まれていたのだが、その請負をしていたのが著者の火野葦平の実家が営む玉井組だった。その玉井組を創設した玉井金五郎、マンという夫婦の物語であり、脚色された部分もあるが、義理と人情が沖仲仕の倫理観といわれるなか、読みごたえのある内容となっている。
この小説の中に登場する玉井金五郎の敵方の首領が吉田磯吉という大親分である。この人物、筑豊炭田の石炭を運び出す一介の人夫からのしあがった立志伝中の人でもあるが、山口組の鼻祖でもある。
おもしろいことに、政界の黒幕といわれた杉山茂丸は子供時分、吉田磯吉を子分に従えて暴れまわっていたという。作家の夢野久作の父親が杉山茂丸になる。
この小説は、当時の生きざまを知るに適したものである。
ちなみに、火野葦平の甥がアフガニスタンで医療活動をしている中村哲医師である。