サックスとピアノを中心に構成された、しずかで端整なアルバム。
2週間前に届いてから、日が沈むと毎日聴いている。
どこまでも透明で、切ない音色。
だけどぎりぎりのところで悲しいほうへはゆかず、かぎりなくやさしい。
好きなのは「ラッシュ・ライフ」。
心がしゃぼん玉になって、都会の夜空に高く、果てしなくのぼってゆくような解放感。
高揚と、胸が焼けるような甘さ。
それから、バッハのチェンバロ協奏曲。
何気なく聴いているつもりだったのに、1分をすぎたあたりで、つつ…と自分の目から水が出てきておどろく。
菊地さんのサックス、低音部が木管のようにやわらかいので、はっとしてスピーカーを振り返ってしまう。
あたらしいCDを買うと、それが好きなアーティストの作品でも、体の奥に入ってくるまで2、3回は聴き返すことが多い。
でも、どういうわけか、菊地さんや南さんの音はちがう。
最初の1回で、あっという間にいちばん深いところをさらわれる。
水面にあらわれた波紋を見て、わたしは自分の心に泉があったことに気づかされる。
ほかの誰も入りこめない、外界の何にも影響されることのない聖域。
そのほとりに、ひとり満ち足りてたたずんでいるような気持ちになる。
たったひとつの旋律が、明日を生きのびる理由になる夜も、人生にはたしかにある。
この世界に彼らの音楽があって、ほんとうによかった。