ある喫茶店の本棚にあったこの本を手にとったのが最初の出会い。
楽譜と装飾体の英字でデザインされた表紙の装丁に魅かれ、表題の美しい響きに魅かれた。
だから、犬養道子さんがどういった人か、読み始めた時点では全く知らなかった。
14編の短編からなり、最初の1編は「陶器の人形」という題。
6歳の女の子にとって一番の大仕事は、毎年のクリスマスに1人ずつ増えていく友達、
すなわち人形に、両親に手伝ってもらいながら、名前を付け、性格付けをすること。
ある日、外国から陶器製の女の子の人形が贈られてきた。
女の子はすでに友達となったぬいぐるみ達と同様、名前を付け性格付けしようとしたのに
両親はその陶器の人形だけは女の子から遠ざけた。
遠ざけられたら余計に近づきたい。
それで女の子は陶器の人形が置かれたピアノの上に手を伸ばすけど、陶器の人形は手を滑って・・という話。
陶器の鮮やかな色彩と光沢。それが粉々になった姿。現状を理解するには女の子は幼すぎた。
でも女の子はひらめく。ある日女中が柱時計の針をひょいっと後ろに戻してた。
同じように時間をひょいっと戻したら、陶器の人形の姿も、自分の失敗も、元にもどるのでは・・
これを読んで、女の子の夢想的な、寓話的な話が続くのかなと最初は思った。
でも後半は「維新の血」「偽主義者たち」「孤影」といった、明らかに「陶器の人形」と違うトーンの表題が並ぶ。
そして、歴史の教科書で誰もが名を知る“犬養毅”が登場する。
先の時計の針を戻して時間を戻したら、という話には続きがある。
お父さんにそのアイデアを伝えたら、女の子=犬養道子さんに静かに言った。
「出来ないんだよ、道ちゃん。時を戻したり、前の時に戻ったりすることは、だれにもパパにも出来ないんだよ。」
女の子が時間を戻したいと思った数年後、日本中が同じ思いをすることになる。ともに心に痛みをともなって。
割れた陶器の破片と同様に、人の命を凶刃で奪い得られた歪んだ歴史も、もとに戻せない。
私にとってこの本は、犬養首相の孫の話というより、
多くの個性的な面々と、両親のいっぱいの愛情と、そして孫をおもう祖父のあたたかい眼差しといった
花々と星々に囲まれた自由な空気のなかで成長していく一人の女の子の物語として楽しめた。