確かにラヴコメである。作者も「青春」を意識したラヴコメだとあとがきで述べている。しかし、ただのラヴコメではない。何とも言えない哀しさと切ない宿命を抱えた運命を乗り越える物語に仕上げているのはさすがの一言。起承転結で奥深いドラマをしっかり描いている。
序盤で2人のヒロイン【花】と【華】が大胆極まる行動に出るところは作者の出世作『
護くん』を彷彿とさせる。こんな嬉し恥ずかし羨まし展開あるかぁっ!とクラスメイトならずも叫びたくなる激甘で話は進むが、中盤から少しずつ色が変わっていく。主人公【夕】を巡る恋模様はそのままに、花と華の秘密めいた背後が見え隠れし始めてシリアス成分が少し滲み出てくる。また、夕にもコンプレックスがあることから、違いこそあるものの、この3人にはそれぞれ宿命めいた負い目や壁を持っているという本作の影のテーマが見えてくる構成である。親と子、そして父と母という、離れたくないのに近寄りがたい、距離を置きたいのに置いて行かれたくない、越えたいのに越えられない存在と関係が本作の背景を色濃く彩っている。しかし、こうしたキツイ宿命と運命を抱えながらも脇道に逸れることなく、打ちひしがれながらも前向きに一生懸命生きようとするのが本作の素晴らしさであり、彼女達と彼、彼と彼女達、この3人の出会いが呪縛からの解放を謳い、お互いがお互いを「救われた」と感謝し合う素敵な物語になっている。
これだけ渾身の1作を上梓すると、しばらく次作の構想が滞る気もするが、これは是非ともシリーズ化して頂きたいところ。小柄な華を愛でる演劇部部長には生徒会長というオプションも付いているのでこのままでは勿体ないし、他にもこれから動き出しそうなメンバーが周りに控えている。それに何より夕と花と華の物語はまだ始まったばかりである。