この作品は「奥の細道」を読んでから挑戦してください。本書には2つテーマがあります。まず一つは芭蕉です。実と虚の間で幻視を求める作業、そこに著者は芭蕉の本質を見出しています。「奥の細道」に潜む虚構と事実の違いには理由があるのです。著者のアプローチは、芭蕉の足跡への旅と丹念な解読です。その足跡には、生まれ故郷の伊賀上野、そして「野ざらし紀行」、「笈の子文」、「鹿島詣で」、「更科紀行」までもが含まれます。そして一つ一つ秘密が明かされていきます。どれもそれ自体はたいした秘密ではないのかもしれません。しかしながら、同じ句でもこれほどの解釈の違いがあるのですね。「夢は枯野」も時世の句とは解釈されません。そして義中寺への埋葬の理由もです。
第二のテーマは旅です。どのように旅をするか。もはや過去のかけらもないと思われる現代にどのようにして過去の痕跡、地霊をたどるか。そのような旅とはいったいどういう作業なのか?時間の経過にもかかわらず、そこに必ず何かを著者は捜し当てます。近年の変化の激しさにも関わらず、著者は300年以上前の人物との魂の交流を可能にする痕跡を創造的に発見していくのです。