江戸川乱歩の短編小説集。
その一話目に掲載されているのが、この「芋虫」という小説である。
表紙絵から想像出来るように、四股を失った軍人とその妻の話。
まさに「おどろおどろしい」という表現しか思い付かない。僅か数十ページしか無い小説である。にも関わらず、これほど人間の狂気と世間の冷徹さと、戦争の無常さを同時に味わえる(というより、味わわされる)小説は無いのではないか。まさに脳みそを打ち砕かれたかのような衝撃を覚えた。
特に妻の狂気の描写が圧倒的である。「どうせ架空の話だから」という考えは粉々に吹き飛び、人間の心の奥底にあるどろどろとした真っ黒な光をまざまざと見せ付けられる。恐怖を感じさせながらも好奇心をそそらせる表現が洗練されているため、読み進むうちにいつの間にか世界に引きずり込まれ、自分自身がまさにこの夫婦の絶望と虚しさの淵に立たされてしまう。「目を背けたいけど見ずにはいられない」。そういう表現がぴったりな作品と言えるだろう。
本屋で試しに軽い気持ちで立ち読みしたのだが、読み終えた後は気が滅入ってしまった。クラシックが流れる優雅で明るい店内とは対照的に、自分は真っ暗な井戸の中に佇んでいるような恐怖。そう言った感覚を味わわされる強烈な内容である。
是非とも大人に読んでもらいたい小説である。ホラーとしての完成度は元より、巨匠の緻密で繊細な表現力に圧倒されることだろう。