江草隆繁は艦爆の神様といつても全く過言でない、真に日本海軍航空隊の至宝であつた。日本海軍航空隊が艦上爆撃機を導入した当初から開発の担ひ手となり、大東亜戦争半ばで散華するまで、主要な会戦のほとんどすべてに参加してゐる。技量だけでなく、その人格において部下からは深く慕はれ、上官からは厚く信頼されてゐた。私意を許してもらへれば、俺は艦爆搭乗員に好きな人物が多い。突入の果敢さでは一頭地を抜く関衛も、自ら最前線で戦ひながら特攻に反対し続けた江間保も、従容として命を受けマリアナの死地に赴いた阿部善次も、先駆けて珊瑚海に散華した高橋赫一も好きだが、誰か一人となるとやはり江草隆繁だな。俺にとつて江草隆繁の魅力は、インド洋海戦での驚異的な命中率のやうなボマーとしての技量の面よりも、周囲の誰からも敬愛せられた彼の人柄と人間臭さにある。本書はかういふ江草のヒューマンなところがよく伝へられてゐる。帯に書いてある「英米を震撼させた静かなる男」といふフレーズは彼の人となりをよく表してゐて宣伝文句の割にはなかなかいいね。ところでジャケットの江草の肖像だが、写真をみると実際の江草はもつといけめんで、ひげもかつこいいと俺は思ふ。