表題にある2篇の他、「文づかひ」、「そめちがへ」、ドイツの作家の作品を訳した「ふた夜」の3篇が収められている。鴎外は22歳のとき(1884年)から4年間、軍医としてドイツ留学をした。「舞姫」、「うたかたの記」、「文づかひ」の3篇は、帰国後まもなく発表された、いわゆる「ドイツ土産三部作」であり、残りの2篇も含めて、どの作品にも、悲しみを伴ったロマンチックな物語が、雅びやかな文語でつづられている。「舞姫」は映画化もされたので、その筋を覚えている読者も少なくないであろう。某省からドイツに調査留学していた「余」太田豊太郎は、貧しい家庭の娘で踊り子をしているエリス(「舞姫」という美化された表題は、このヒロインを指す)と恋に落ちるが…。巻末の解説によれば、発表当時、この作品の結末は主人公、ひいては作者自身の評判を悪くしたそうである。しかし、豊太郎は、人間の心の弱さを鋭く描くために作りだされた人物とみるべきであろう。これにくらべれば、他の作品は、読後の時間経過とともに筋を忘れてしまいそうになるほど、あっさりしている。しかし、読中はどの作品も、作者の文体が自分に乗り移るかと思われるほど、読者の心にしみじみと食い込んでくるものがある。難しい漢字には、現代仮名づかいで振り仮名がつけられているので、若い読者にも読みやすいであろう。