いまだ尾を引き決着の付いていない邪馬台(壱)国、畿内説VS北九州説論――、
上巻に引き続き、天皇のルーツを探る本下巻は因縁の本懸案に分け入っていく。
まさかの初代(神武)天皇と卑弥呼との関り、やはり古代日本の玄関口であった
九州北部から現日本人の血脈は始まっていったのか? 天皇どころか、実はそんな
混血民族であったのかもしれない日本人の始原が薄っすら垣間見れた気がした。
ともかく様々な難問を最終的に鮮やかにクリアしつつ、その謎解きを主人公である歴史
小説家・望月に語らせていくのだが、その小説仕立ての手腕が導く半端ない面白さ。
実際に様々な歴史の舞台に降り立ち、関る人々との会話の中で、その謎を次々と
解き明かしていく様は、その臨場感もさることながら歴史ミステリーそのもの...
事実主人公に接触してくる謎の漂泊集団サンカ(ハチ)や、何よりまつろわぬ
作家である望月を付け狙う謎の刺客たち...内容が内容であるだけにじわじわと
襲う目に見えない恐怖は、やはり本書のテーマが遥かな古より連綿と続くリアルな
現実と直結している、そのことを今さらながら思い起こさせ、思わず背筋が凍る。
きっちり裏を取った上での筋道の通った著者ならではの目の醒めるような
天皇のルーツに迫る新説自体もなのだが、それ以上に感服したのは、現実に
著者自身が被ったであろう襲撃の危機でさえも、こうした小説仕立ての作品の
中で独自のエンターテインメントに仕上げてしまっている、その手腕である。
タブーであるからこそ湧き上がる疑念と好奇心―そしてそれに纏わる恐怖。
その真実を浮き彫りにさせているからこそ妙なリアリティがあるのだ。
さらに随所で繰り広げられる著者らしい今風の例えなど独特の言語表現による
謎解き解説は、どんな緻密な研究書よりも解りやすく爽快明白で、しかもすっと
その論拠が面白いように腑に落ちる、それはやはり直感がものを言う、この一点に
尽きるのだろう...結果ぐいぐいと引き込まれ、上下巻ともに読了するまで
二日足らずで一気に読み終えてしまったという、この何たる破天荒な面白さ!
著者が提示する北九州から壱岐対馬を経て南朝鮮まで網羅する新倭人の王国は、
シナの知識技術を得て瞬く間に日本本土へとその生存圏を拡散させ今に至る。
神話や信仰でさえも己の領土を拡げるための武器に変え、畢竟それが人が
人として生きるがための一つの本能なのかと主人公同様に眩暈を覚えつつ、
同時にだからお隣の韓国に妙な親近感を感じるのかという言葉を越えた何か...
そんな感慨に包まれながら、それでも自然と調和し生きてきた牧歌的な縄文人の
心に同化していく――これまた主人公同様のそんな思いに、今さらながら失われた
何かを求める心、もしかしたらこれこそが原初的な日本人の心なのかと薄っすら思い
至るのだった。初代天皇Xのしたたかさ、そして縄文倭人の穏やかさ、その両方が絶妙に
ミックスされた現日本人は、確かに優秀かつ情緒豊かなハイブリッドなのかもしれない。