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まずこの本の最大の魅力は、かくもストレートなプロットを、よくぞここまで書き切ったものだ、ということ。ぼくは正直言って前半部では、主人公の動機が無茶に感じられたことなどもあって、その地道で忍耐強い行動そのものに首をひねってしまったたものだが、問題の牧場に乗り込んでからが、言わば「あしたのジョーが特等少年院に送られた」時のような雰囲気で、突如佳境に入っていくのだ。
主人公は内なる誇りを隠し、悪辣でいやな男を演じねばならない状況であるのだが、こういった時の心理描写が凄まじい。このまま自分が、演じている男そのままになってしまうのではないか、と恐怖を感じたり、自分の言動や周囲の視線に、耐え難いほどの絶望を感じたりする描写は、プロの冷酷なスパイ小説では味わえない醍醐味がある。この辺の独白が素人の女々しさと言われればそうなのかもしれないが、逆に自己の魂との相克が見せ場となり、むしろそれ自体作品の魅力となっていることは否めないはずである。しかも常に逃げ出すことのできる状況で葛藤しながらも、己れの今後の生きざまにさえ賭けてゆく主人公の心積りは、既になまなかのものではない。
フランシスならではのカタルシス。耐えに耐え、内なる闘志を研ぎ澄まし、最後にきっちりと落とし前をつけてくれる男の物語。これらを確かに表現してゆく、魅力的に抑制された一人称の文体。
文句なしに傑作ではなかろうか。
特に男性にお勧めします。
どの巻でもたいてい、逆境に追い込まれた主人公がそれに負けずに立ち向かう話になっています。... 続きを読む
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