驚くべきは、主人公の食に関する経験の豊かさ。高級フレンチに、一流の板前の手による刺身といった贅沢な美食はもちろん、祖母の手料理、祖父の作る野趣に富んだ魚料理など、家庭の思い出につながる食べ物、はたまた米国の大衆食堂で朝食に食べたボリュームたっぷりのトーストまで、実に幅広い「味覚」の世界が展開される。そんな中で、主人公が「会話」があってこそ価値あるものになった食事を思い出す下りも興味深い。
さて、主人公が最後に思い出した「至福の味」とは? 実は、皮肉なほど素朴な食べ物なのだが、それもまた、美食の奥深さを感じさせてくれる。
(日経レストラン 2001/08/01 Copyright©2000 ブックレビュー社.All rights reserved.)
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本当の読書好きに味わっていただきたい一冊です・
ひときわ優れた料理小説であることは言わずもがな、世間で高く評価されながら家族の冷たい視線を浴びる一人の男の姿が興味深い。
死を目前に、最高の味を思い出す彼の奢った口ぶりを透かして、「人生における幸せとは何か」が見えてくる仕掛けだ。
活字で美味を味わい自らのレシピに一品加えるもよし(わたしは今度から、バターを塗ってからトーストすることに決めた)、人生について思いを馳せるもよし。
読み手によって、さまざまな味わい方に応えてくれる―まさに『至福の味』の、小説である。
主人公はフランスの高名な料理評論家。今、死の床についている。さんざん美食を重ねてきた彼が、最期にその究極の味を追い求めて自分の人生を振り返る。今まで食べてきた数々の食材、料理、酒が脳裏をめぐる。そして死の直前、彼にとっての至福の味とは何であったのかをつきとめる。
これは料理の推理小説とでもいえる。美味しいものが好きな人は、是非読んで御覧なさい。
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