哲学の立場から自閉症について考察した書である。医療・福祉・教育以外からの視点で自閉症を扱った書物というものに初めてお目にかかった。フィールドワークの成果をもとに綿密な考察を行っているので、決して机上の空論ではない。否、かえって一般的な方向性からでは見えてこなかった地平の広がりが見えてくる、知的刺激をもたらす書である。
考えてみれば哲学は人間の意識を考えることには深い伝統を持っている。自閉症の人々がどのように物事を捉えているか、自分と周囲の世界の関係をどのように感じているかということを考察するには哲学からのアプローチというものは意外と適しているのかもしれない。
哲学の立場から自閉症を眺めると、興味深い風景が広がっている。
個人的には第3章の「流れない時間」、第4章「平らな空間」に強く興味を引かれた。時間や空間は数千年来哲学が取り組んできた課題である。そして、医学ではふれることの少ない課題である。
また、これまでの哲学の議論のうち、自閉症の人の世界を包摂できない論に異議を唱えていく著者の思索はより深い見解への道を開くもののように思われた。自閉症の人も当然人間である。ある種の人間の世界を説明しきれないような論が人間普遍の論として通用することはないだろう。自閉症の人のあり方がより深い人間理解や哲学の構築につながると言う事実には爽快なものを感じる。