タイトルからイメージする”自衛隊本”ではない。自衛隊の歴史や海外派遣、さらにはイラク戦争や民間人の犠牲者が膨らむ現代戦の特性など、広く安全保障についてわかりやすく論じた好著である。
本書の優れた点はこの種のテーマにありがちな抽象論に陥ることを避けながらも、集団的自衛権やソフトパワー論などについて現在の内外情勢に即していきいきと話を進めているところだ。私は必ずしも著者のスタンスと同一ではないが、豊富な事例やデータに基づいた丁寧な論理の展開は無理がなく、共感の連続だった。
国民不在の安全保障が空疎なものであることや人間の安全保障の意義を熱く語りかけてくる著者の姿が見えてくるような気がした。陳腐な表現で反戦・平和主義を訴える新聞の社説と違い、ページをめくるたびに心に響くものがあるのは深い知識と洞察に裏付けられた理念の力だろうか。
安全保障なんて難しそうという人には恰好の案内書である。同時に防衛庁・自衛隊関係者やジャーナリストなどには何のための安全保障なのかという根本的な思考を刺激してくれる一冊になるはずだ。