我が国をめぐる安全保障環境の変化とそれを受けての自衛隊の変容は、昔ながらの護憲勢力からはこのように見えるのだろう。ひたすら米国に服従するために、自衛隊は海外での活動を活発化させるとともに、米軍の戦争に協力する準備を進めている、というのが本書の見方だが、このような見方に与する日本人は今や少数派であろう。本書に欠落しているのは、安全保障環境の変化、とりわけ中国の軍備力増強と軍事活動の活発化、そして米国の国力の相対的な低下に対する認識だ。筆者は中国の軍拡はかつての日本の防衛力増強に対抗したものと見ることができるとし、日本が軍縮を行えば東アジア諸国も軍縮を行うと述べているが、筆者は日本の防衛予算がここのところずっと削減され続けていることを知らないのだろうか。日本の防衛予算が減っているにも関わらず、中国の軍拡は続いている。また、米国の国力の低下については一切言及がないが、国力が低下した米国にひたすら日本が服従しようとするという論は説得力が無いのではないか。また、筆者は欧州の安全保障政策を絶賛しているが、EUは今や存続の危機にあるし、リビア戦争に際しては欧州の安全保障政策の問題点が浮き彫りにされた。日本と欧州では安全保障環境がまるで違うことでもあるし、他国の安全保障政策をモデルとして掲げて日本の安全保障政策を批判するという手法は最早有効ではないだろう。
今や朝日新聞や毎日新聞でも書かないような左がかったことがオンパレードな本書は、ある意味「化石」的な価値を持っているのかもしれないが、今後の日本の安全保障環境や安全保障政策を考えるための資とはなり得ない。