25歳にして著書「最後の転落」で15年後のソ連崩壊を予言。02年の有名な「帝国以後」でアメリカの金融危機を予言した、フランスを代表する知の巨人であり歴史人口学者・家族人類学者の今のところ最新の翻訳書。
本書は09年秋の来日時に行った講演や対談を収録したものであり、一冊の本として編まれたものではないが、その分圧倒的に読みやすく、今までの著者の主著書にも触れていることから、トッド入門篇としても楽しめる内容となっている。
トッドによれば、サルコジの大統領当選はよほどショックだったようだ。元来エリート層が指導者となる伝統の国で、グランゼコール出身ではなく、移民二世で上昇志向が強く、政治家としての理念や理想もなく、露悪的に私生活をワイドショー化し、暴言を吐き、アメリカにすり寄る男の存在は許せないようだ。(トッドは繰り返し「休暇をアメリカで過ごす男だ」と言う)
しょーもない政治家ばっかりの日本人には別に驚きはないし、ベルルスコーニよりましに見えるが、この背景は格差社会から発生する政治的アノミー、エリート層の無気力があり、民主主義の変質と混乱がある(民主主義発生の地フランスでもそうなのだから、日本の指導者に理念がなくポピュリズムにはしるのはむべなるかなという気がしてしまう…のも著者のいう「アトム化」的なものか)。
人口動態からソ連崩壊を予言した著者の、ここでの主張は自由貿易から起こる賃金低下を防ぐための「(EU)域内保護貿易」である。かつて企業家は賃金の上昇によって購買力が上がると考えたが(フォードが工場労働者の賃金を上げたのが想起される)、自由貿易はその逆であり、EUは低賃金の新興国に対抗するために保護貿易を行うべきであるという、ある意味「革命的」な提言である。
詳しくは本書をお読みいただくしかないが、これは大戦間に起こった保護主義とは異なるものであり、全ての商品に当てはまるものではなく、排外主義とは違う(著者はサルコジの移民対策に関しても嫌悪を露わにする)。著者は、やがて世界はひとつになるというような空想的な理想主義者ではなく、あくまでプラグマチストであると思う。ただし、ルーピー鳩山前首相が唱えたようなアジア共同体のようなものは、EUとは違い成立しえないと喝破している。
経済学者やアメリカの学者とは異なる視点からの、耳を傾けるべき案である。