自由貿易に象徴されるグローバリゼーションの危機を主張し続けているE・トッド氏による論考を中心に、自由貿易と保護貿易という命題に含まれる多くの課題を浮き彫りにしてくれる一冊。
そこには、単純に二項対立論ではいかない大きな課題がひそんでいることを明らかにする。
すなわち、
自由貿易は製造業の空洞化を通じて深刻な雇用の流出をもたらす。
不況に対して、景気刺激策を採ったとしても、結果として新興工業国の輸出が増えるだけである。
今の自由貿易は富の偏在を招き、需要を縮小させ、格差を拡大させる。
2008年の世界経済危機も世界規模の需要不足が原因である。
自由貿易と民主主義は両立しない。
など多くの問題点を指摘しつつ
大恐慌後の保護貿易によって経済の収縮が起こったという事実はない。
あのケインズも穏健な保護貿易を主張した。
リカードの比較生産説は農産物には当てはまらない。
など、興味深い説も披露される。
一方で、経済学への批判も鋭い。
トッドが批判する経済学の「経済人」という考え方に加え、今日の世界は三つの作り話、すなわち「自由貿易」、「市場経済」、そして「経済成長」であるという関氏の議論も興味深い。
また、GDPという考え方の欠陥、すなわち金銭に基づく市場取引しか計上しないのに対し、市場以外の貨幣を伴わない交換などGDPにカウントされない部分があり、必ずしも豊かさの指標とは言えないというのが論拠である。
さらには、混迷が続く日本の政治状況について、日本だけでなく先進国共通の現象とし、民主主義の弊害としての社会の階層化が進んでいると危惧する。
急激な円高進行と圧倒的な労働コストの差から、家電業界に代表されるようにいまや日本の製造業は大変な危機に瀕している。
TPPが製造業にとって救世主のようにいわれているが、大いに疑問である。