自然・環境保護の根底には、人間には自然が必要だという考えがあります。けれども、なぜ人間には自然が必要なのか、とさらに踏み込んで問うことは、あまりなされていないのではないでしょうか。本書で、ネイチャーライティングやエコクリティシズム研究の第一人者である野田研一氏は、「なぜ人間には自然が必要なのか」という問いと真正面から向き合いつつ、文学はもとより、わたしたちの身近な日常世界を「自然と人間との関係」という観点から鮮やかに読み解いています。詩的で論理的な思考がわかりやすい表現で綴られていますが、内容はとても深いです。
野田氏のネイチャーライティング論の基軸にあるのは、「人間世界の出来事と自然現象のあいだには、何かつながりや関係があるかも知れないという〈交感〉の思考」です。この〈交感〉の思考は、ネイチャーライティングという文学領域だけに見出せる特別なものではなく、かなり日常化されているもののようで、じっさい野田氏は、テレビドラマ、校歌、演歌などを題材に、いかにわたしたちの日常に〈交感〉の思考が浸透しているかを示しています。
そのように身近な現象の基底にある〈交感〉の思考が、ネイチャーライティングでどのように展開しているのか。石牟礼道子、アニー・ディラード、ロバート・フィンチ、エドワード・アビー、加藤幸子といった日米の作品分析をとおして、野田氏は、動物の目に映る世界への文学的アプローチがもつ現代的意義に迫ります。ネイチャーライティングは、野田氏もいうように、これといったストーリー性がないので、人によってはつまらないと思うかもしれません。けれども、そこで描かれる人と自然との関係を追っていけば、なぜ人には自然が必要なのかということが個人の内部で具体的に理解されてくるという、詩的マグマを秘めた文学だと言えます。本書を読んで強くそう思いました。