「訳者あとがき」でも述べているように、確かにこの本はユング心理学における基本について語られており、かつユング自身の書いたものの中ではもっともわかりやすいものである。なのでユング心理学を知る上で一番初めに読むべき本であるといえる。もっとも、わかりやすいといっても他のユングの著作と比べての話なので、さすがにすらすらと読むわけにはいかないが、しかし少々の努力で十分に読み切れるであろう。
『自我と無意識』(直訳は『自我と無意識の関係』)というこの本では、題名どおり自我と無意識の諸現象の関係が語られている。まず「個人的無意識」と「集合的無意識」について語られ、次に「ペルソナ」と呼ばれる、自我が社会との関わりのなかで作り出して身につける、一種の仮面のようなものについて説明される。
後半部では「個性化」という、ユング心理学における究極の目標といえるものについて説明される。その個性化の過程には、「アニマ」や「アニムス」、それから「呪術師」(知恵と権威に満ちた存在で、「老賢人」とも呼ばれることがある)と「太母」(グレート・マザー、いわゆる大いなる母)という諸元型が現れるとしている。その最後に目指すものはユング独自の定義で「自己(the self, das Selbst)」と名付けられたもので、これは究極の心的中心点であるという。
このように、この本ではユング心理学における重要概念の多くについての基礎が扱われているが、ペルソナの対立物として重要な概念である「影」についての説明がないため、これについては他の著作を当たらねばならないのが唯一の難点ではある。それでも内容も値段も手頃なのでユング心理学入門に最適な本として是非お薦めしたい。