著者は、東大の大学院で脳神経医学を専攻した医学博士で脳科学研究者の中野信子氏。
最近、「祈り」や「救済的行動」という宗教行為と脳科学の関連を記した文献は、種々
散見するが、この書物は、いずれの分野の初心者にとっても、とても分かり易い。難解な
事柄を平易な文章でコンパクトに、しかも最先端の知見を含みながら紹介している。
私が特に心に残ったのは、「人間は『配慮範囲(自分が責任を持つ範囲)』が広ければ
広いほど、幸福な人生を送っていける」という記述。宗教的な「利他」の祈りと行動が、
単なる倫理規範に止まらず、脳科学の観点からとらえても即「利己」と直結する、とい
うことである。「情けは人のためならず」との古くからのことわざが、科学的な裏付け
を得て、より説得力を増すように感じる。
本書が教えてくれるのは、人生の一つ一つの事柄に対して、利己的で付け焼刃的な対
処では、何よりもまず自らの心を裏切り、それ自体が「不幸」だということ。「祈り」
を根本として自他共の幸福を願い、全身全霊で取り組んでいる瞬間こそが「幸福」の実
体そのものである、ということであろうか。
人生の「王道」を示唆してくれるユニークな「幸福論」である。