本書はこの仮説に基づき、ヒトの脳の基本メカニズムを解説した後、神話、儀式、神秘体験、宗教、絶対者などが、脳が自己と他者の区別を認識しなくなる「絶対的合一状態」に由来するものだという証拠を示していく。その鍵になるのが、身体の空間的な位置把握を司る脳の「方向定位連合野」だ。瞑想における極度の集中、あるいは「無」の状態がこの領域への感覚入力を遮断し、特別なモードに入ることが宗教体験を引き起こすというのだ。多くの事例を交えながら、平易な言葉で知的興味を喚起するポピュラー・サイエンスである。
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5つ星のうち 5.0
かようにして脳は<神>を見る,
By 増田裕昭 (米国カリフォルニア州ナパ) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 脳はいかにして“神”を見るか―宗教体験のブレイン・サイエンス (単行本)
著者達は、最新の核医学測定装置(SPECT:単光子放出断層撮影)を使用して宗教的な神秘体験をしている瞬間(実は少しの時間的ずれがあるのですが)の脳の活動の測定結果に基づいて、神秘体験(「絶対的一者」との融合)と脳機能との関係を解き明かそうと試みます。特に最新の脳神経学の知見に基づいた「脳の機能」「神話の創造」「宗教儀式の発生」「宗教の起源」などの議論は非常に興味深く勉強になります。『瞑想あるいは宗教儀式を通して、方向定位連合野(自己の感覚を作り出し、それを空間内で位置づける機能を担う脳の部位)への情報が遮断され、自己と非自己との区別が無くなった神秘的合一の瞬間に、自己を超越するリアリティーの感覚に吸収されてしまったように感じる』との彼らの主張も説得力があります。そこに<神>を見るのですね。ただし、彼らの考察は脳神経科学(neuroscience)では無く脳神経学(neurology)の立場からの考察なのでどうしても脳の巨視的活動しか見ていない上に、彼らの実験方法では外的擾乱の無い状態での脳機能の時々刻々の詳しい時間的経緯は測定できない等の欠点があります。そう言った欠点に対する彼ら自身の考察は一切ありません。また、最後の2章「現実よりもリアル」と「神はなぜ消えないのか」は、かなりの範囲で形而上学的仮説に基づいた議論であり、前半の章における脳神経学的考察と比べると説得力は格段に劣ります。また、アインシュタインやカール・セーガンなどの物理学者の言葉を、いかにも彼らの仮説の傍証のように引用しているあたりも感心できません。 その様な本書の欠点をあげつらえばきりがないですが、それでも彼らの真摯な試みおよび考察には敬意を表さざるを得ませんし、正直言って私は本書を読み終えてかなり心地よい知的満足感を覚えました。それ故、本書には5つ星を捧げたいと思います。脚注や参考文献もしっかりしており、監訳者がイギリス留学経験もある専門家であることから訳文も的確で読みやすい点も評価できます。
22 人中、18人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
神秘体験,
By
レビュー対象商品: 脳はいかにして“神”を見るか―宗教体験のブレイン・サイエンス (単行本)
「神とひとつになった」とか、神秘体験、なんて言うと一歩引いて眉をしかめ思考停止してしまいそうですが、著者たちは本書のタイトルどおり、「脳(人間)はいかにして神を見るか」、という疑問を持ち、解明しようとしています。1章~3章で脳の基本的な構造や機能について概観し、4章からは、人類がどのように神話や神、また宗教の儀式などを発見してきたのかを脳の神経学的側面から推測しています。本書を読んで、ガチガチに特定の宗教にはまっている人なら怒りで言葉も出ないのでは?と心配したり、また科学一辺倒で神なんてない、と考えている人なら興味も示さないかもしれません。私は、どちらかというと科学寄りですが、最終章の「神はなぜ消えないのか」まで読み終えた時、(僕のたってる大地=考えがそんなにも頑丈だとは思えない、神秘体験をした人の方があっているのかも)という、ありきたりだけど自然にそんな感情になりました。著者たちが読者に、私が感じた気持ちを持ってもらうよう意図していたのならば、私の脳は著者の意図どおりになりました。 4章、ネアンデルタール人の神話
11 人中、9人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
科学と宗教の刺激的な出会い,
By 特に瞑想の分析が秀逸だ。精神が最も集中した時点では時間・空間を認識させる外界の刺激が遮断され、自己と外界の境界線の認識が不可能になる。このため、永遠や無限なる宇宙との「一体感」が生まれる、というのだ。 最近"Why Christianity Must Change or Die"(John Shelby Spong),"Alone With Others"(Stephen Batchelor)など、西洋の宗教者達は科学的知識と合理主義の時代に、既成宗教に現代的意義はあるか、という問題を真剣に問い始めている。宗教者による思索と、科学者による分析の両面から、今後現代人にとっての宗教について議論が展開されると面白いだろう。 その意味でも本書の著者(共著者のD'Aquili氏は故人)にはより広範囲で多様な宗教体験・現象の分析を期待したい。発展途上の分野(Neurotheology)だけにまだ本書の内容にも不満は残るが、今後への期待がふくらむという点で、刺激的な本である。
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